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マルガレーテンヘーエ工房 選び抜かれた釉薬の深み

選び抜かれた釉薬の深み
Keramische Werkstatt Margaretenhohe/マルガレーテンヘーエ工房

マルガレーテンヘーエ工房は、1924年にバウハウス理念の影響下でエッセンに設立された、ドイツで最も古い工房のひとつ。1987年、この工房のディレクターに就任した李英才(リー・ヨンツェ)は、元々の工房理念に立ち返って食器中心の制作をしたいと考え、スタッフとともに形・色の研究を重ねに重ねて、このコレクションを作り上げました。その形と色は今日までほとんど変わることなく作り続けられています。
  • マルガレーテンヘーエ工房の器の魅力はその完成されたかたちと深みのある色彩。今回、様々な分野で活躍する3名の方に、マルガレーテンヘーエ工房の器について語っていただきました。デザイン、文化、クリエイション、様々な視点からこの器の魅力に迫ります。

  • マイク・エーブルソン(デザイナー)

    「人間の手の跡を消しすぎていないのもいい。昔のものづくりみたいに。」

    マイク・エーブルソン

    ― マルガレーテンヘーエ工房の器を使い始めたきっかけは?
    ギフトで友人からもらったのが最初かな。それから自分でも何点か買いました。

    ― どのように使っていますか?
    フルーツを入れるときれいないい皿があったけど割れちゃった。子供が落としてしまって……家族みんなで泣いちゃいました。食器って、毎日使うものと、そうじゃないほこりをかぶったものとにはっきり分かれますよね。厚さが違うとか、形が丁度いいとか、色がいいとか、いろいろ理由はあるけれど、それって買うときは気づかないかもしれない。

    ― 使っていくうちに発見していく感じですか?
    そう。使っていくうちに、なぜかわからないんだけどハンドルが気持ちいいなとか。買うときに全部気づくのは不可能だと思う。持って帰って一緒に暮らすとわかってくる。

    プレートとマグカップ

    ― 今回、蓋付きポットを使ってみたいと思われたポイントは?
    料理で残り物がでたときに、ラップを使うのが好きじゃなくて。プラスティックのものは電子レンジを使うとき、なんとなく害を気にしちゃう。耐熱ガラスのもあるけれど蓋はやっぱりプラスティックだし、なかなかいいのがない。オーブンでも使える陶器でそのままテーブルで使えて、保存もできるという理論的にはいいのがあるけれど、デザインがあまり気に入らない。僕、すごくうるさいんです(笑)。

    でも、これだったら、このままテーブルにも出せるし、冷蔵庫に入れても邪魔にならなさそう。例えばクッキーも1日目はいいけど、その後にラップをしておくと、だんだんラップが汚れてくるのが好きじゃないし、プラスティックの容器だと美味しそうに見えない。

    ― 機能性とデザイン性が使い心地につながることが大事ですよね。
    そう。これは飽きてしまうような模様はなくて、シンプルな釉薬で微妙な色がきれい。透明感のある釉薬に深みも出てくるし、何をのせてもよく見える。いい皿があれば、料理の技術がなくても大丈夫。
    そして、昔のものづくりみたいに、人間の手の跡を消しすぎていないのもいい。釉薬をかけた跡とか、轆轤をひいたときの手の指の跡とか。消そうと思えば消せるけど、意識して残してるんじゃないかな。そういうのがすごい。それに、和でも洋でも使えるのもいいね。

  • 泊 昭雄(写真家)

    「美しいというよりは、“上品”といったほうがいいかもしれない。」

    泊 昭雄(写真家)

    ― マルガレーテンヘーエ工房の食器はご存知でしたか?
    知らなかったです。初めて見たときは韓国だなあと思った。工房の名前を聞いてすぐにホームページを見ましたが、昔のDANSKっぽいなと。すごくDANSKの食器が好きだったので、DANSKの曲線版だなあと思いました。色や質感も近いなって。

    ― 韓国っぽいと思われたのは色からですか?
    色もそうですし、形が民芸っぽい。昔、撮影の小道具として器を探していたときが、ちょうど韓国民芸のブームで、そのときに見つけた器がこんな色でした。でも、こんな色をよく出せますよね。

    ― アートディレクターの李さんはギャラリーや美術館などで個展もされていますが、やはり色彩の世界観がすばらしいんです。
    実は僕、陶芸家を目指しているんです。2020年までは写真を撮り続けるけど、その後は陶芸家になりたい。それで今から勉強しようかなと。アシスタントが陶芸出身なので、今、色々聞いているところです。

    写真を撮っていると、この釉薬のツヤに色々なものが写り込むのが苦手なんです。テーブルの真ん中に置いたときに周りの食器が写り込むのも大嫌い。だから僕は中に釉薬を放り込みたい。表はそのまま。それは難しいと釘を刺されているんですけど……。

    ピッチャーをフラワーベースとして

    ― 選んでいただいたピッチャーとカップの好きなところは?
    色ですね。このカップの白が外側でグリーンが内側だったらもっといい。この花は近所で咲いていたものを活けました。野花が好きなんです。

    ― 今回、泊さんにはこの器を撮影していただきました。レンズ越しに、いつもどんなことを考えていらっしゃるんでしょうか?
    僕はモノから入ってきている人間なので、どんなモノがきても、その世界を取り出すように撮りたいと思っています。要するに、安いグラスであっても上品に生まれ変わるのが、僕の写真の撮り方なんです。そう自分に言いきかせています。

    今回こういう構成にしたのは、その形を上品な世界に持っていくためにはどうしたらいいかを考えて、主役が絶対ひとり必要だと思ったから。それがこの滲み方なんです。フォーカスの当たっていないところには滲みをかけています。形と色がわかればいいじゃないかと。ひとつものが見えていれば、あとは想像できるでしょ? それが僕の発想の仕方かな。

    ― 泊さんのものや空間の捉え方をうかがっていると、モノの魅力にたどりつくのがきっと早いのだと思います。
    それは自信あります。迷い出すと良さが見えてこない。迷うことがいちばん嫌いなんです。だからすぐ決断しちゃいます。僕の場合は、「見る」というより「視る」という感覚です。見るんだったら徹底的に見る。そして見た限りは好きになる。だから迷わないし、良さにたどりつけるんだと思います。常に美しいものにしたいと思っていますが、美しいものというよりは“上品”といったほうがいいかもしれない。写真も絶対上品なものにしたい。

  • 平松 洋子(エッセイスト)

    「器の持つ様々な背景を知った上で扱えば、ぐっと面白みが増すはずです。」

    平松 洋子(エッセイスト)

    ― これまで数多くの国の様々な食文化に触れてこられた平松さんですが、この器の印象を教えてください。
    最初は、使いこなすのが難しいように感じました。器としてだけでなく、モノとして非常に完成度が高い。器としての使い勝手と、モノとしての完成度は別だと思うんです。

    ― もの自体は美しいけれど、使い勝手が難しいと感じる部分はどのあたりですか?
    この器のデザインソース、つまり原点がどこかと考えたとき、それは韓国の祭器だと思いました。私は李朝のものが好きで、たとえば耳(取手)付きのボウルを見たときに気づいたのが、これは真鍮や石でつくられてきた朝鮮半島伝来の意匠でもあるということです。

    韓国の祭壇は日本のそれと比べて高く、床に座って拝むので、祭器は横から見て美しいのが条件です。盛るものも、高く積みあげて徳を表すという儒教的な考えがあり、横あるいは下から見上げたときの尊厳な趣、格調の高さが大事なんです。

    この器には、そのような文化的背景をもつ国で育った作家の個性が、優れた魅力として表れており、使いやすさやデザイン性だけではなく、奥底に深い精神性が感じられる。そういう多面的な要素を知った上で扱えば、ぐっと面白みが増すように思うのです。

    蓋つき容器とフラットプレート

    ― 実際にはどのように使われましたか?
    プレートは、スクランブルドエッグや、濃い色のトマト、インゲンのごま和えなどとともに、色彩のコントラストをつければ、存在感がよりはっきりするように思います。テーブルの風景にメリハリをつけてくれるんですよね。

    食べ物自体に力があるものがいいように感じました。 蓋付きポットにはにんにくの玉を3、4個入れています。通気がよく、適度に湿気を防ぎ、蓋付きなのでそのまま置いておいても風景がすっきりするところが素敵です。

    ― 蓋付きのポットをニンニク入れにされたのにはなるほどと思いました。ショウガの置き場所にも困るんですよね。
    あ、ぴったりですね。冷蔵庫に入れると水っぽくなっちゃうし。新聞紙に包んでこの中に入れておくといいですね。お饅頭やおせんべいなどの和菓子もこの中にいれて、そのままテーブルの上に運んでも素敵じゃないですか? そういうコンテナみたいな使い方も楽しいですよね。

    ― 今回選んで頂いたアイテムの他にも気になる色や形はありますか?
    ツヤのグリーンもいいなと思いました。でもプレートの場合は盛ってみないとわからないところがありますよね。私、盛ってみて、あ、違うなと思ったらお皿を変えるんです。そういう意味ではマットのグリーンのほうが想像しやすいかな。
    深めのボウルも使いやすいと思います。和食の煮物にも合うはずです。冬の大根とお肉の煮物やおでんとか。でも見れば見るほどどれもキムチに合いそうですね。

    ― 組み合わせて、重ねて使うのもいいですね。
    大きめのプレートにパンや目玉焼きを盛り、小さいカップを置いて、それにヨーグルトやフルーツを入れ、ワンプレートで使うと遊びがあって楽しいと思います。色を変えて合わせてもいいし、ガラスでもいいでしょうね。それだけ“舞台”になってくれる器だと思います。

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工房アイザワは新潟県燕市に本拠地を置くメーカーです。その歴史は古く、大正11年より金属製品を中心とした暮らしの道具を手掛けています。国内の工場で作られるその製品は、そのクオリティの確かさと使い勝手の良さにより多くのファンを持つメーカーです。また、1984年に発表したブラック色のカトラリーはMOMAの永久収蔵品に選ばれるなどデザインにおいても高い評価を得ています。