特集FEATURE
One's MOTIF / vol.3 熊谷彰博さん
BMI ポケットメジャー Meter
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身体感覚に近い使い心地のメジャー
―こちらの商品に出会ったのはどういうきっかけでしたか?
時期は大体10年くらい前ですかね。メジャーを探していたときに、リビング・モティーフで見つけて。BMIのこのコンパクトなタイプのものはそれまで知らなくて、「どうやって使うんだろう?」と興味を持って購入しました。
通常のメジャーでは見たことがない構造で、新しい工夫が感じられたのがきっかけですね。
―ストッパーを押すとメジャーが数センチ伸びて、指を離すと固定される珍しい構造ですよね。使用感はいかがですか?
一般的なメジャーよりも軽くて扱いやすいです。
トリガー型のギミックも、慣れると取り出してすぐに使うことができるので、仕事のときはそのままリュックに入れています。
いちいちロックをかけなくても固定される、その動きを手が覚えているので、身体感覚に近い使い心地ですね。
家具や展示什器、グラフィックの設置などのスケールを測るのによく使っていますが、それ以外にも手が届かない展示品の位置を微調整したいときに、伸ばしたメジャーの先端で押して動かしたり(笑)。
軽いから手の延長線として使えるんですよ。 -
オルタナティブな選択肢を持っていたい
―メジャーのような仕事道具を買う際、重視されるのは機能性ですか?
ものにもよりますが、機能性だけではなくて、「代替可能」ないいものを求めているように思います。語弊があるかもしれないですが、「別にこれじゃなくてもいい」という前提の中で選び抜くというか。それくらいの気軽さが大事な気がするんですよね。
仕事道具って必要な場面で手元にないこともあるじゃないですか。そういうとき、特定のものがないと進みにくいとか、“もの”に頼る状態になるよりは、工夫して対応することを習慣にしたくて。
なくても成立するけど、あったら応用が効いたり、使い勝手がいい。そういう存在のものって意外と見つけるのが難しいんです。
―“もの”とはフラットな関係性を保たれているのですね。
そうですね。たとえば、「このノートとペンを使い続けないと落ち着かない」と身体が覚えてしまうよりも、考えていることを素早く書き出すことを優先したい。そのためにはどんなメモ書きや紙でもいいわけで。そういう柔軟性が大事な気がします。
仕事のプロセスでも、「AでもなくBでもなくCを考える」といったように、オルタナティブな選択肢を持っていたい。そういうところは道具との付き合い方と一致しているかもしれません。 -
集めたものが自分のライブラリーになる
―壁面の棚にも道具のようなものがたくさん並んでいますが、「これはなんだろう?」と思うものが多いですね。
形自体がすごく不思議だったり、用途から切り離されると何なのかわからなくなるものもありますね。
たとえば、薬を固めるための古い道具であったり、祭祀に使う棒だったり、植物を栽培するドームのパーツだったり。中には、売っている人に尋ねてもそれが何なのかわからないこともあったりします。
わからないことで“もの”を誤訳できる余白がある。それに、意図的にも間違った解釈ができるのも創造的じゃないですか。断片的な情報の中で自分で考えた方が、たとえ正解じゃなくても飛躍した発想に繋がると思うんです。
一見すると脈絡のないものを組み合わせて関連性を創出したり、手元に置いておくことで、時間をかけて気づくことも多いですね。―独特な視点でものの収集を始めたのはいつ頃からなのでしょうか?
お店だけじゃなく、骨董市やさびれた日用品店など、幅広い場所からものを探して選ぼうと意識するようになったのが20代半ばくらいからでした。
デザインに従事していると、メーカーやデザイナーからものを選ぶようになりがちだけれど、そうではない選択肢として、あらゆるジャンルから自分自身がいいと思うものを、理由がはっきりしていなくても手にしてみるということを繰り返すようになったんです。
それを長く続けていくとあらゆる解像度が上がってきて、自分なりのライブラリーやデータベースができてくる。ものに紐づいた情報の引き出しをたくさん持っている方が、ものをつくる上でさまざまな判断をするときに役立ちますよね。 -
見たことがないものに出会える場所
―リビング・モティーフにはいつ頃から来店されていますか?
学生時代、AXISビルで開催されていた展示を見に来たときからですかね。それ以来、近くの美術館やギャラリーに訪れると、そのまま見回りに来ます。
行くと各フロアをぐるっと回るけど、若い頃は2階にツールやステーショナリーを見に行くことが多かったですね。今は1階のイベントを見たり、日用品や家電を見たりすることもありますね。
―リビング・モティーフにはどんなイメージをお持ちですか?
たくさんのジャンルに独自のものが揃っているという印象があります。それでいて均衡を保っていて、ジャンルを越えたインテリアのセレクトに水準も見えてきます。
自分にとっては、「何かあるかな?」と覗きに行こうと思う場所。セレクトが入れ替わったりするので、行くと知らないものとの出会いがあります。目的がなくても、ふらっと立ち寄れば、それほど気に留めていなかったジャンルにも発見がある、そういうお店ですね。 -
熊谷彰博/Akihiro Kumagaya
デザイナー / ディレクター
物の見方や構造を探求し、独自の視点と文脈の再構築からデザインとディレクションを手がける。物の構成と素材を抽出し、表象と知覚を媒介するオブジェクトの習作をつづけて、2021年、初の個展「OBJECTS」にて発表、同テーマを基幹に作品を制作。近年では、この手法をプロダクトや家具に応用し、SEKISAKA「PARK」やFIEL「OPEN」を発表。
主な仕事に、T-HOUSE New Balance フリーマガジン「NOT FAR」アートディレクション、無印良品「STOCK 展」企画・監修・会場構成、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、「柳本浩市展」キュレーター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザイン。編書に『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)
https://alekole.jp/
https://www.instagram.com/akumagaya/